思考実験
FDE: Forward Deployed Engineer求人が急に増えた
FDE: Forward Deployed Engineerという職種の求人がここ1~2年、急に増えました。客先常駐SESの今風の言い方という意見もありますが、ChatGPTのようなAI、Claude CodeのようなAIエージェントの需要爆発の時期と重なり、単に従来合った職種のラベルが変わっただけという説明では不十分にも感じました。
自分なりに考えた末、AIエージェントがクライアントヘビーだからFDE=SKILL.mdをかけるソリューションアーキテクトがビジネスとして成立するという説を思いついたので持論を展開します。
クライアントヘビー、サーバーヘビーかはアプリケーション傾向による
以前、SaaSブームはSystem of Recordより、サーバーヘビーなのでRailsと相性がいい説を唱えました。
作っているソフトウェア次第なのですが、花形というか開発組織内で人数が多い部署だとWeb系だとバックエンド、ゲームだとクライアント側が多いです。VRゲームならまずVRとして出るのが大事でクライアントヘビー、WebとiOSとAndroidでサービスを提供している業態の場合、個別にロジックをクライアント側で実装3回するより1回バックエンドで実装して、ロジックは裏側で吸収した方が最短だよねとすればサーバーヘビーになります。
AIエージェントはWebで動くものもありますが、今のトレンドはClaude Codeに代表されるようにクライアント側です。Webかどうかというとロジックがどちら側にあるかですね。
個社カスタマイズしたら開発生産性的には負け
一般にソフトウェア開発の生産性はコードの複雑性に比例し、コードの複雑性は仕様の複雑性に比例します。個社カスタマイズを一つ入れてパターン数が2倍になると、デグレ確認に時間がかかり当該機能の開発速度は半分になります。
エンタープライズなど顧客単価の高いアプリケーションなら、人件費がよりかかってもそのカスタマイズは開発費使っても見合うかもしれません。一方で、中小B向け、C向けとなるにつれ、顧客単価が下がるのでカスタマイズを受け入れる経済的合理性が減ります。人件費上昇分を売り上げでペイできなくなるからですね。
エンタープライズのアプリはUIはダサくてもいいというか、機能が動くこと、その会社の業務要件に合っていることが大事で比較的サーバーヘビーのアプリケーションが多いです。SPAのようなルーティングをしても画面Aの権限制御がこれ、画面Bの権限制御がこれみたいな権限制御がたくさんあるとフロントでルーティングしても結局バックエンドに問い合わせが必要みたいな相性の悪さもあります。
個社のための機能追加は従来ならバックエンド側のテーブルやカラムの追加によるフラグがたつことになり、それでコードの複雑性が上がるので、エンタープライズアプリの開発は時間がかかることになります。
AIエージェントはうまく使えば複雑性をクライアントに閉じ込められる
AIエージェントはルールやスキルという仕組みがあり、守ってほしい業務フローをルールで、専門性高い作業をスキル(SKILL.md)という形でコード化できます。
AIエージェントはサーバークライアントモデルにとらわれないクライアントだけで完結することもできるアプリケーションですが、WebサービスがAIエージェントよりのことをしようとすると自然とサーバークライアントモデルになると思います。
サービスのMCPを汎用で配る場合もありますが、より業務に踏み込んだ場合AIエージェントのスキルを代わりに開発するという話は起きそうな案件です。
ここで繰り返しになりますが、個社カスタマイズは従来では比較的サポート外とされていた部分です。AIエージェントのスキルはうまく使えば複雑性をクライアントに閉じ込めることができます。
すごい単純な例だと例えばAPIから返ってくるCSVをその会社の別のシステムに合う形に変えたいとします。このくらいのフォーマット対応ならスキルを作ればバックエンドを変えずに複雑性をクライアントに閉じ込められます。従来SaaSでは提供できていなかったラストワンマイルが埋められます。バックエンドの開発速度低下せずとも個社カスタマイズに対応できるわけです。
FDEの実態はほぼソリューションアーキテクト
FDEはまだ概念が定まっていないうちはなんでもできるスーパーエンジニア、シニアエンジニアのその先みたいに言われることもありました。一方で、実際のFDEの実態はほぼソリューションアーキテクトという報告があります。
実際、自社技術を理解して極力既存コンポーネントで求めるシステムを作る方向性はかなり似ていますね。
FDEが客先常駐かは作るのがバックエンド側か
こんな感じで整理していくと、FDEが作るのがバックエンド側なら従来とあまり変わらない、客先常駐というのはそうかもしれません。ここで言いたいのは実際にFDEをされている方の能力がどうというよりも、個社カスタマイズをバックエンド側でやったら基本ビジネスとして負け筋ということです。
新たに出てきたカスタマイズ部分をクライアント側で引き受けてくれる機構、AIエージェントのスキルで吸収できればビジネスモデルとしては成立します。
その昔御社のホームページ作りますよというビジネスが流行りましたが、その令和版の営業が御社のAIエージェント作りますよになるのかもしれないですね。やっていることは代わりにSKILL.md+α書きますよが多くの案件の実情でしょうか。
幻滅期の予想: AIへの指示だしにはキャップがある
この業態の幻滅期が来るとすれば意外とAIへの指示だしにはキャップがある点でしょうか。
AIにたくさんプロンプト書いて指示を出しても(昔のは)無視されるというのはよく言われることで、ワークフロー化や業務分解でひとつのエージェントの職責を減らしたり、やりようはありますが、それでもカスタマイズ層で吸収してくれるものには技術的にキャップが意外とあるかもしれません。
ここが技術の発展で解消されればよし。されない場合は思ったより人数を一社に投下しても技術的制限で開発しても前開発したものが無視されるが起きやすい、スケールしないにはなるかもしれません。
AIエージェント黎明期はソリューションアーキキテクト+αで成立していても、とある時点から大規模化していくと思ったよりベースの技術力が必要になりそうです。限られたLLMの思考メモリの中で上手くやりくりするアーキテクチャの絵を描く能力が必要。
こうなってくるとジュニアエンジニアにFDEとラベルを付けた企業は破綻していきます。シニアでもダメならこの業態でできることの天井に達するのでFDEのレイオフ開始ですかね。
企業がFDEを採用する時の注意点
企業がFDEを採用する時の注意点ですが、基本的に通常のソフトウェアエンジニアの職種より高い賃金テーブルの求人が多い点がまずあげられます。
この上昇要因を分解すると、まず技術力の価値というのはまずその技術が出たばかりのタイミング、その職能をできる人が少ないうちの方が需要と供給上、需要側が不利である点が一つあります。機械学習エンジニアだけ他のエンジニアより高いラダーをひいている会社はありますが、AIエージェント開発に対しても同じことが言えます。
FDE特有のポイントとしてはFDE=ソリューションアーキテクトとして捉えると比較的ソリューションアーキテクトは外資系の企業で多いロールであるということです。外資系の企業は日系企業より一般に高給です。そこから人を引き抜くのは大変。
あとは顧客企業に出向かないといけない可能性がある点も不利です。単にスーツを着たくないという人もいれば、ソフトウェア開発以外の事業会社だとリモートワークが少なく出社しないといけない、東京大阪福岡札幌などの首都圏以外に長期出張しないといけない、休み・育休などが取りづらいなどなど。その分プレミアムがのります。この辺りは業態というか自社のポジショニング上の強さにもよるかもしれないですね。
個人がFDEに転職するときの注意点
個人がFDEに転職するときの注意点ですが、思ったよりFDEはシニアエンジニアの先、スーパーエンジニアではない点だと思います。この職種を極めてもマネジメント経験が積めないかもしれないし、技術的に難しい部分よりは顧客カスタマイズメインでその先にCTOは進めない可能性はあります。
エンジニア出身のPdMになりたい人だったり事業責任者目指している人は逆に近いかもしれません。ソリューションアーキテクトに近いのでFDEがなんだかわからないロールのうちにソフトウェアエンジニア => FDEになって、英語力をつけてFDE => 外資のソリューションアーキテクト狙う作戦もあるかもしれません。
あとは習熟した技術がトレンドから外れたりサービス終了になったりするのはエンジニアあるあるですが、AIエージェントやFDE自体に幻滅期が来れば食いっぱぐれる可能性はあります。
一般に受託開発の会社と自社開発の会社だと後者の方が育休などは取りやすいのですが、この業態は比較的受託開発よりというか、そのときの客先次第でリモートワーク可とか出張とかはコントロールしづらい部分はあると思います。逆に人と話すのが好きで出社の方が生産性上がるタイプの人には向いているかもしれないですね。
派遣や出向なんかでもそうですが、基本的に人事評価は評価者が日々の仕事ぶりをちゃんと見れていないとうまくワークしないことが多いと思います。上がりも下りもしないかもしれないけれど元より高給なのでそれでオッケーと言う人には向いているかもしれません。
まとめ
以上です。
まとめると以下のような感じでしょうか。
- AIエージェントの普及と同時期にFDE: Forward Deployed Engineer求人が急に増えた
- 従来は個社カスタマイズしたら開発生産性的には負け
- AIエージェントはクライアントヘビーなので個社カスタマイズしてもペイする可能性あり
- FDEの実態はほぼソリューションアーキテクト
- FDEが客先常駐かは作るのがバックエンド側かどうか
- AIへの指示だしにはキャップがあるのが幻滅期の要因になる可能性あり
- 企業がFDEを採用する時は他より高給になる可能性がある
- 個人がFDEを目指すリスクは思ったよりスーパーエンジニアになれない可能性ありなど
