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There's More Than One Way To Do It

フューチャーベンチャーキャピタルに学ぶ会社法

少数株主を無視できなくなってきた

前口上

2022年6月、フューチャーベンチャーキャピタル(FVC)の経営陣の総入れ替えがありました。4月に個人株主の金武偉氏が行った株主提案によるもので賛成率68%で可決となり、金氏は社長に就任しました。

株式会社において大きな決定をする際、持株比率が50%以上あるとほとんどの決定を単独で行うことができます。ライブドア事件の時に話題になったように実際は議決権ベースでの過半数だともう少し実際の持株比率が低くても大丈夫なのですが、それでも何かを通すときに持株比率は多い方が有利というのが基本です。

金氏は2.5%しか株を保有していなかったにもかかわらず提案を通しており、象徴的な事例なので復習しておきます。

持株比率でできること

まず会社法の復習をしておきましょう。持株比率が低くてもできることがあります(少数株主権)。ざっくり以下が可能です(弁護士ではないのであくまで参考情報)。

取締役会の有無で少しブレがあるのと、継続保有要件(6ヶ月上)が必要な場合があります。

  • 1株以上(単独株主権): 株主名簿の閲覧
  • 単元株(100株であることが多い)以上: 議決権
  • 1%以上: 株主提案権
  • 3%以上: 会計帳簿閲覧権、株主総会招集請求権、役員解任請求権
  • 10%以上: 会社解散請求権
  • 33.4%以上: 特別決議の単独否決
  • 50%以上: 普通決議(取締役の選任・解任など)の単独可決
  • 66.7%以上: 特別決議(自己株式の取得など)の可決
  • 90%以上: 少数株主の株売り渡し請求
  • 100%以上: 全て自己決定可能

不正利用での請求は会社側は拒否できるのですが、1株でも持っていると株主名簿が閲覧できます。証券会社で株を買うと情報がいく仕組みになっているみたいですね。株が下がった時に罵詈雑言をSNSに書いていると住所含め個人を特定できるかもしれない。。。

FVCのケースでは全国を行脚して直接株主に提案賛成のお願いをしていたようです。

株主提案は今回のメインの部分ですね。少なくとも1%は必要になります。

会計帳簿閲覧権は3%で、ここら辺を見れると収支がわかるので有効な提案ができるかもしれないですね。金氏単体ではクライテリアを超えていませんが、協力者の株主と合わせて3%超えれば見れます。

提案は株主に是非を聞いた結果、過半数賛成となれば取締役の入れ替えが可能です。

今回の件とはずれますが、村上ファンドなどでは自社株買い(に伴う株価上昇)を要求することが多いです。

類似事例

基本的に取締役の入れ替えには50%以上の可決が必要なので、少数個人株主の意見が通るかというと通らないことが多いです。

サイト自体が閉じられてしまったのですが、金氏はラクオリア創薬の事例を参考にされたようです。2021年にラクオリア創薬は11%を保持する柿沼佑一氏の株主提案により8:2の圧勝で取締役の入れ替えを行いました

FVC後の事例にはなるのですが、OKWAVEも2022年8月に元取締役の杉浦元氏の株主提案で86%以上の賛成により取締役の入れ替えをおこなっています。

SNSによって個人の力で組織を変えやすくなっている

さて今回の話に戻りましょう。観測できた限りで金氏がおこなっていた施策は以下です。いくつかは社長になられた際に消してしまわれたようです。

  • Twitter
  • ブログ
  • YouTube
  • LINE
  • 株主への手紙
  • 全国行脚

デジタルな発信をすると共に、アナログな直談判も行ったのも印象的ですね。いわゆるスケールしないことというか。株主にはご高齢の方もいらっしゃったようなのでそれもあるのかもしれません。

少し違うかもしれないですが、アメリカではRobinhoodという手数料無料のアプリが普及した結果、GameStop株の価格が乱高下したことがありました。Redditの投稿で民衆がたきつけられたのが急騰の一因のようです。

株主名簿には名前や住所は載っているかもしれないですが、手紙やメールで伝えるだけではどんなに提案が良くても伝わらなかったように思います。コロナでDXが進んだ結果Zoomくらいなら誰でも使えるようになり、少数株主でもSNSやYouTubeを駆使して思っていることを言えば共感が得られやすくなったのがポイントです。

今まで株主比率というと指標として単一株主の持株比率に注視することが多かったように思います。SNSや動画配信が発達した現代においては全体の個人株主比率が高いと徒党を組んで既存政権を転覆しやすくなったように感じました。

所感

LIXILも本が出ているようなので読んでみたいです。