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IT企業の待遇差ファクターの分解

経営者と労働者で目線がずれる理由の正体を探る

日本のエンジニアの給料は高いのか低いのか

日本のソフトウェアエンジニアの給料の良さについては諸説あり、他職種より高いので高いと言われることもあれば、国別比較だと他国、特にシリコンバレー周辺より低いので低いと言われることもあります。

こういった議論をするとき、IT企業と非IT企業の業種の格差、営業やデザイナー、エンジニアの職種間の差、東京と東京以外の都道府県の差、中小企業、上場企業、スタートアップの差、会社員とフリーランスの差、日本とアメリカの国間の差などなどが混ざってしまっているように感じて、分解してみることで知見を得られるのではと思い今回比較してみます。

IT企業と非IT企業の業種の格差

dodaの業種別データをグラフ化しました。

平均年収403万円でインターネット/広告/メディアだと412万円で+2.2%、IT/通信だと436万円で+8.1%。あまり差はないですね。

営業やデザイナー、エンジニアの職種間の差

同じくdodaの職種別データをグラフ化

平均年収403万円でデザイナーはクリエイティブ系とすると374万円で-7.2%。営業だと439万円で+9.2%、技術系は電気/電子/機械でもIT/通信でも442万円で+10.0%

日本は非IT企業に所属しているエンジニアよりIT企業に所属しているエンジニアが多いと言われているのと、単純に掛け算していいのか微妙なところはあるのですが、簡単な推定で

Web系企業(インターネット)に所属しているエンジニアなら全体平均年収403万円 x 業種ブースト+2.2% x 職種ブースト+10.0% = 453万円でしょうか。同様にIT企業に所属しているデザイナーなら373万円、営業なら450万円。

東京と東京以外の都道府県の差

同じくdodaの都道府県別データでみると平均年収403万円に対し、東京は440万円で+9.2%。「年収は「住むところ」で決まる」という本もありましたね。

簡単な推定で東京のWeb系エンジニアなら495万円、デザイナーなら407万円、営業なら491万円。

中小企業、上場企業、スタートアップの差

平均勤続年数12年の日本人にとってスタートアップで勤務するというのはリスクが伴います。別記事に書いた通りシリーズCでも2割弱倒産します。

ネクストユニコーン調査の結果ベースで上場企業(正社員)で平均年収622万円、スタートアップだと688万円。

最近福岡他のスタートアップも増えてはいますが、スタートアップの暗黙の前提で東京でWeb系のファクターは入っている気がしますね。エンジニア比率が高いかは微妙なところですがSaaSなんかだと低めの割合なので一旦無視します。

上場企業の半分は東京なので東京ファクター+9.2が半分かかるとして上場企業勤務は+47.6%のファクター。スタートアップは業種ブースト+2.2%、東京化の+9.2%を間引いて+53.0%のファクター。東京IT企業間で上場=>スタートアップは+3.7%のファクター。

東京のWeb系企業で上場企業だとエンジニアは731万円、デザイナーは601万円、営業は725万円。同様に東京のスタートアップだとエンジニアは758万円、デザイナーは623万円、営業は752万円。

グロースになる前のマザーズの上場企業は平均年収560.9万円のようなので上場企業も市場区分によって変わるかもしれないですね。

会社員とフリーランスの差

別記事に書いた通り、解雇規制の強さは国によって違いがあります。日本が厳しいというよりアメリカがかなり他国比で緩い。

国間の比較の際にここの項が入ってしまいそうなので会社員からフリーランスになった時も比較しておきます。フリーランス=アメリカ企業の社員と同じ前提にできればと。

フロントエンド/バックエンド比較の際に作成したグラフを再掲します。

営業の待遇が下がって、デザイナーと同じになり、エンジニアとの差は開いています。上場企業勤務の営業の人がいたらフリーランスになるのは割りの悪い勝負と言えます。逆にエンジニアはデザイナー比での待遇が+18.5%=>+35.1%(バックエンドエンジニア)となっています。

飲食店の賃上げなんかをみても分かる通り、人手不足による賃上げは人材の新規獲得性の高い企業からおきます。ソフトウェアエンジニアの求人倍率は14倍と言われますが、そういう状況だと

  • ソフトウェアエンジニアの待遇は毎年上昇する
  • 待遇上昇は新規獲得性の高いフリーランス、スタートアップなど中小企業から起きる

といえます。

逆に需給が反転した際にも待遇減は中小企業から起きるのでそうなった際は、市場感反映に時差のある大企業にしがみついた方がいいですね。

給与所得の手取り早見表フリーランスの手取り早見表からフリーランスデザイナーの年収777万円は手取り520万円。厚生年金の会社負担額777*0.0915=71万円を引いて449万円。会社員だと年収580万円くらいでしょうか。

同様にバックエンドエンジニアをエンジニアの代表として1050万円で手取り675万円程度、厚生年金の会社負担額96万円を引いて579万円。会社員だと年収780万円くらいでしょうか。

スタートアップ=>フリーランスは営業で-22.9%のファクター、デザイナーは-6.9%のファクター、エンジニアは+2.9%のファクター。

思ったより全体が上がるわけではなかったので一旦無視します。

日本とアメリカの国間の差

本当は英語が話せるブースト、外資系企業に勤めているかもあるのですが、手元にデータがないのでスキップします。

Cartaというベンチャーキャピタルがデータを公開していたので他国、おそらくほぼアメリカ(以降アメリカ前提)の待遇と比較します(1USD=150JPY)。ストックオプション他も入っています。

営業を1とするとデザイナーが+7.5%、エンジニアが+24.0%。日本比で営業の待遇が低くてデザイナーの価値が高いですね。一つの国でなくグローバルで戦っている企業が多いからかもしれないし、日本は漫画文化の影響で絵を描いたりデザインをできる人材が豊富と言えるかもしれない。

日本=>アメリカのスタートアップだとエンジニアは3.58倍、デザイナーは3.78倍、営業は2.91倍。アメリカに行けとう記事はエンジニアが書いていることが多い(当社調べ)ですが、一番ゲインが多いのはデザイナーかもしれないですね。

アメリカの平均年収が1420万円アメリカのBigTech除くテック企業の平均年収が2550万円なので、日本とアメリカの平均年収の差が3.5倍。テック企業は都市部にあるとしてテック企業ブーストが日本は+64.8%なのに対して、アメリカは+80.0%

確かにテック企業かどうかの差はありますが、それより国力の差がありますね。テック企業=>Big Giant(GAFA)でも+40.6%のアップあり

国間のソフトウェアエンジニアの待遇比較

国別ソフトウェアエンジニアの待遇データも見つけたのでグラフ化したものをのせておきます。(USD)

やはりアメリカも高いですがスイスも強いですね。日本を1とするとシンガポールで+16.2%、フランスで+21.7%、ドイツで+45.1%、カナダが+71.2%。イスラエルが1.99倍、スイスが2.7倍、アメリカが3.1倍。

少しズレがありますが上の統計ともあっていますね。

考察

Web系のエンジニア限定でまとめていくとこんな感じでしょうか。

  • インターネット業界で働くと+2.2%
  • エンジニアになると+10.0%
  • 東京で働くと+9.2%
  • 上場企業勤務だと+47.6%
  • 上場企業=>スタートアップだと+3.7%
  • (スタートアップ=>フリーランスだと+2.9%)
  • 日本=>シンガポール(アジア英語圏)で+16.2%
  • シンガポール(アジア)=>カナダ(北米)で+47.3%
  • カナダ=>アメリカで+81.0%
  • (非テック企業=>テック企業の日米差+15.2%)

思ったよりいい国やいい企業に勤めるかが大事でエンジニアであることのメリットが少ないですね。語学力が低くても仕事ができるという意味では有利ですが。

営業出身の社長の感覚で言うと日本において営業とエンジニアは同等かIT以外だと待遇面で営業の方が上の認識があるかもしれません。最近は日本のスタートアップでもグローバル思考の企業が増えてはいますが、アメリカと同等に収束するとすればエンジニアは営業の1.24倍になる気もします。

一方で例えば日本は非IT企業にいるエンジニアの数が少ないと言われており、toB SaaSのオンボーディングの労力が他国より必要とも聞いています。営業が重要なのもそういう日本特有の構造部分があるかもしれないですね。

例えば非テック企業=>テック企業の日米差もメンバーシップ雇用の名残とも取れて、ジョブ型に移り、セカンダリー・マーケットが成熟してくれば株式を含めた割合においてテック企業ブーストが+80.0%に収束することは普通にありそうです。

統計を見る限りアメリカではスタートアップとBig Techの待遇の逆転は起きていないように見えます。例えば日本でもCFOが外資系金融のポジションとの比較で待遇が下がることがなかったり、データサイエンティストが保険のアクチュアリーのおかげで買い叩かれることが少ないように思います。Big Techと言わないまでもメガを超えたベンチャーがもっと増え札束で殴り合うと需給上労働者有利になるのになというところ。