切り捨てSONYを読んだメモ
前口上
アメリカのテック企業ではレイオフがブームですね。layoffs.fyiに情報がまとまっていますが、とりわけTwitterは社員の半数以上が解雇・自主退職により辞めたと報道されています。
よく日本人の給料が上がらないのはアメリカ比で解雇規制が強すぎるからという意見を言う人もいるのですが、OECDの調査によるとむしろ中央値から外れているのはアメリカで、世界で見るとむしろアメリカの規制がなさすぎるというデータがあります。
https://www.dir.co.jp/report/research/economics/europe/20140318_008337.pdf
よって日系企業で同じようなことが急に起きるかというとそういうわけではないのですが、ソニーでのリストラの事例をまとめた本「切り捨てSONY」を見つけたので後学のために読んでみます。
本の概要
目次は以下です。
- 1章 ソニーの変貌 2006-2007
- 2章 ターニング・ポイント 1946-2006
- 3章 技術者たちの矜持 2008-2009
- 4章 リストラ志願 2012-2013
- 5章 元には戻れない・戻らない 2012
- 6章 ヒト切りSONY 2012-2014
- 7章 終わらない苦しみ 1954-2014
- 終章 奮闘する「辞めソニー」たち
本自体は2015年の本です。
1章がソニーの社内制度や周辺環境の紹介、2、3、5章が社歴や過去のリストラの紹介、4、7章がリストラ部屋、6章がリストラ担当の話。
ソニーの退職制度
事業構造の変化に伴い、ソニー内部でいくつか施策を行なったことが書かれています。
- イントラ内のセカンドキャリア支援サイト
ソニー卒業生の事例紹介
- Sony University
幹部候補生養成所
- キャリアデザイン室
通称リストラ部屋。退職願を出して会社費用で転職斡旋会社のサポートを得るか、決めあぐねて研修などを受けるか。
施策としては凡庸なことを粛々とやっている印象です。部署ごとに低パフォーマーを一つの部署に集約させて、教育して社内の別部署の募集を受けさせるか、早期退職金を与えて転職を支援するか。
統計的比較
ソニーグループの社員数は2022年3月末で108,900人。時期によるのですが、3,000〜1,0000人/年程度が削減数のようです。20年で8万人といったところでしょうか。結構多いですね。
アメリカ企業比で人を切れないのが日本企業の難しさと思ったのですが結構リストラしていますね。。。ソニーは平均年収も高めなので日系企業の中では外資系に近いというか、より周辺環境に変化があったときに社内調整で融通がきく部分が少ないのかもしれません。
一方でキャリアデザイン室に入った人は毎年100~300人程度のようです。思ったより少ないですね。普通の人は諦めて、削減人数の5%程度の人のみが決めあぐねるといった感じでしょうか。
ソニーは割合複数事業あり、メーカーとしてはポートフォリオ経営に近い業態ではあると思うのですが、それでもリストラの判断になるのを見るとメーカービジネスは難しいですね。
最近の解雇の事例、判例
関連で解雇に関する事例や判例についても調べてみました。
日本の解雇規制は強く、例えば契約書上で雇用期間を定めた社員でも無効になることがあります。2019年にDMMがその件でもめていたりしました。契約社員の雇い止めが違法になるケースも多いです。
一方で、最近の外資系のジョブ型雇用だと解雇もある程度正当化される判例もあるようです。条件は厳しめですが。
ポスト消滅による解雇を不服として訴えたが解雇を有効と判断。部署廃止後に5つの社内公募を提示、解雇回避努力を尽くしたと評価。
- ユナイテッド航空 最高裁 解雇有効
高裁時の言い分だと、契約で職種を限定している中で、年収水準を維持した配転の提示や早期退職に伴う退職金の加算など解雇の不利益を緩和する可能な限りの回避措置を講じたと評価
所感
日本における解雇の嫌なところは就職が新卒一括採用に特化して、解雇されると就職先が限定される点です。今までの経験を元に他社でも同待遇で採用されるなら嫌解雇性は減るわけですし。
最近知ったのですが、アメリカのワシントン州では2023/01から15人以上の会社では募集する際の給与レンジの公開が義務化されMicrosoftも含まれます。
思えば日本の求人票は経験に応じるとして、給与レンジ非公開、または新卒から引退まで含んだざっくりレンジのみしかないことが多いようには思います。給料が上がらない、解雇された際の受け皿が少ないのは、他社に移った際の透明性が低いからなのではないか。
解雇規制を緩めるのは割合骨の折れる改正なのと、日本は世界比で極端に悪すぎるわけではありません。むしろワシントン州と同様に、日本も求人における評価制度と給与レンジの公開義務化を進めた方がより社会として健全な気はしました。