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There's More Than One Way To Do It

エンジニアリングマネージャーはいずれレビューマネージャーになる

テックリードとエンジニアリングマネージャーの分業は合理的か

マネージャーにプレーヤーとしての能力は必要か

技術などの専門性を競争力としている企業において、マネージャーにプレーヤー能力をどこまで求めるかはしばしば議論になるポイントです。

一般にプレーヤーとマネージャーとしての能力は完全に相関するものではなく、優秀なプレーヤーをそのままマネージャーにするというのは適正がない場合もあります。能力主義の階級社会において、誰しもが有能さを発揮できていた地位から、無能ぶりを露呈することになる限界の地位まで昇進させられる(ピーターの法則)。

実際、管理職になることだけが昇給する唯一の方法だと名ばかり管理職を産みやすく、適切なマネージャー:プレーヤー比率を保てず企業としての競争力が低下することもあります。

一方で「IT分野の管理職は高いIT能力を持っていなければならないと思う。優れたコードを書けないソフトウェア部門の管理職なんて、馬に乗れない騎兵隊の隊長みたいなものだ」という主張もあり、テスラなどでは管理職にも最高の技術力を要求することでビジネスとして成功しているようにも見えます。

ここら辺は言ってしまえば会社によってポリシーが違う、最高の人材とだけ働きたいので札束で殴って管理職にもトップの技術力を求めますという会社もあれば、人材獲得性の観点から凡庸なスキルの人の組み合わせだけで事業が継続できるようにしますという会社もあるというだけではあるのですが、本には⚪︎⚪︎と書いてあるので××のパターンが絶対正しいですという主張をする人もたまにいます。

要はバランスの部分ではあるのですが、どういう時にマネージャーにプレイヤーとしての能力を求めても経営合理性があるかについてまとめてみます。

技術が出てからどのくらいたったかで最適ポイントは変わる

マネージャーにプレイヤーとしての能力を求めるかで一番最初に考慮するポイントは技術のぽっと出係数だと思います。

例えば刺身にたんぽぽをのせるのを仕事にしている会社があるとして、作業が信じられないくらい高度に専門的なため管理職は作業内容を全く知らなくてもいいという判断になることはないと思います。日本では現在一般事務の求人倍率が1を割っていますが、その仕事が(他の仕事との相対比較で)30年前からやることにあまり変化が起きていない場合、長い年月の中でそのスキルを持った人の割合が増えており、そのスキル+管理職スキルを持っている人の求人をかけても採用できる確率が上がります。

例えば、機械学習コンペにおいて、ベテランのエンジニアより学生エンジニアの方が強いケースがしばしばみられますが、新しい技術は若者の方がキャッチアップしていることが多いように感じます。新しい技術を覚えるには学習時間が必要で、身銭を稼ぐのに忙しい社会人エンジニアは可処分時間で負けがちです。

一般に社会人経験が長いほど管理職スキルを持っている確率が高いわけですが、新しい技術+管理職能力だと人材獲得の面で不利であります。今なら例えばLarge Language Model周りは変化も速くキャッチアップそれ自体で大変で、LLMのプレーイングマネージャーをやるのはより枯れた技術領域のプレーイングマネージャーをやるより大変でしょう。

実際Web開発黎明期は若者技術者と技術はそんなにわからないベテランを組み合わせるのが合理的であったように思います。

人事評価でEMが技術力測定するならEMに技術力は普通に必要

一般に人事評価をプレイヤーとマネージャーどちらかやるかというとマネージャーの仕事とされることが多いようと思います。ただそこには欺瞞もあって、技術者と管理職を完全分業する組織において、技術者の一番大事な技術力を技術のわからない管理職が評価できるか?というと外しているケースも多いように思います。

この点がCOO的マネージャーと区別するために技術もある程度はわかるエンジニアリングマネージャーという用語が出てきた理由だと思います。HIGH OUTPUT PLAYERにおいて人間の能力を分解しましたが、コンピテンシー的部分のみ管理職が評価し、技術力についてはプレイヤーのトップが見るというパターンも一つの合理性なのですが、あまりみない類型ですね。

例えば人事評価で外部の技術者を呼んで、技術力評価委員会を設置し、査定の一部を管理職から切り離している会社もあるのですが、それができている会社は少ない印象です。部署間格差を最小化する必要はあるのですが、AssessOps的合理性で言えば普段の仕事ぶりをみている人が評価者にちゃんと入った方が納得感があるのも事実で、技術軸のトップが別のチームに所属しているとそこにねじれはあります。普段の仕事をみている管理職の技術力が高ければ高いほど技術者の技術力を評価する精度が上がるように思います。

エンジニアリングマネージャーに求められる技術力は年々上がる

しばしばエンジニアリングマネージャーに上がった人はもう技術をキャッチアップしなくていいんだと安堵する人も一定数いると思うのですが、アセスが仕事内容に含まれる場合、矛盾があります。技術が登場したタイミングから時間が経つにつれて技術がわかり、管理職もできる人が増えてくるというか、あぐらをかいていると同僚の管理職比で劣ってみえるわけです。

エンジニアリングマネージャーに求められる技術力は年々上がるというのは不都合な真実ですが存在するように思います。

人材市場とちゃんとベンチマークすると、技術のぽっと出係数が減ってくるにつれてテックリードとエンジニアリングマネージャーのラップ範囲が増えていると思います。実際営業など技術系より鮮度に敏感ではない職種は管理職は業務内容を知らなくていい、マネジメントだけしていればいいとならないことが多く感じます。

  • ぽっと出係数100: 管理職は技術について何も知らなくていい(COO的マネージャー)
  • ぽっと出係数75: 管理職は技術者経験がある必要がある。元バックエンドエンジニアがiOSのマネージャーをするなどねじれはあっても良い(エンジニアリングマネージャー)
  • ぽっと出係数50: 管理職はマネージャーをする領域の技術者経験がある必要がある。iOSのエンジニアのマネージャーは2流でもいいが元iOSエンジニア。(レビューマネージャー)
  • ぽっと出係数25: 管理職はマネージャーをする領域の技術者経験があり技術力も高い必要がある。(プレイできるレビューマネージャー)
  • ぽっと出係数0: (特定領域はExcel使える程度に広く普及し、管理職はより複合的な技術力を求められる)

最近のWeb系の会社だとテックリードと分業する場合、ぽっと出係数100はあまりポピュラーでなくてぽっと出係数75〜50くらいが求められる要件な気はしますね。次に来るトレンドはエンジニアリングマネージャーはいずれレビューマネージャーになる であり、そういう企業もちらほらいる印象。ガツガツ実装はしないがプルリクのレビュアーには一応入っている状態。

会社規模が十分に大きいか、階層は深いか

実際スタートアップのCTOはテックリードとエンジニアリングマネージャーを兼務しているような働き方が多いです。会社規模が小さいと人が辞めた時にカバーしないといけない範囲が大きいわけで、自然プレイできるレビューマネージャーであることが求めらます

CEOをChief Executive OfficerでなくChief Everything else Officerと茶化していう創業者もいますが、切り出せる範囲が大きいとCEOとしては楽なわけで、スタートアップ文法で言えば細かすぎるロールより余白の多い人材が重宝される傾向にあります。

階層が深いかも重要な視点で、例えばCTOがエンジニアを採用すると徐々にレビューマネージャーに移り、そこも任せられる人が採用できたらより抽象度の高いマネージャーのマネージャーに移るというパターンもあるでしょう。

プレイヤー/マネージャー論争している時点でその人の見えているスコープは現場よりで、それこそマネージャーのマネージャーのマネージャーになるとより抽象度の高い人を動かすマネジメント力が要求されます。逆に単なる1チームのマネージャーならかなり現場よりなので技術を全て忘れらるかというと、それでワークするケースは少ないように思います。

中途のエンジニアリングマネージャーの採用にコーディング面接は必要

実際Googleではエンジニアリングマネージャーの採用にもコーディング面接が課されるようです。

多くの企業では評価制度上、プレイヤーとマネージャーに分岐する前、基礎となる部分は共用しています。新卒からのプロパーマネージャーなら元エンジニアであることが保証されているわけです。それを中途の採用になった時にマネジメントだけできればいいというのは不整合な話で、分岐する前の元エンジニア分の技術力があるかをちゃんとコーディング面接で見るのは一貫しているようにも思います。

リセッション期にマネージャーは需要が減る

もう一つ技術のわからないエンジニアリングマネージャーの需要が減るポイントがあって、それが景気のリセッション期です。X(Twitter)やメタでレイオフした際、マネージャーにプレイヤーに戻るよう求めるシーンがありました。

プレイヤーとマネージャーで言えば景気のいい時、組織拡大期ほどマネージャーの需要が高まります。逆に景気後退局面では組織をダウンサイズするのでマネージャー:プレイヤー比を一定に保とうとするとマネージャーのポジションは世の中全体で減ります。

不況時に手に職があると強いの実態は、マネージャーvsプレイヤーで言うとリセッション局面ではプレイヤーの方が需要があるということだと理解しています。

まとめ

まとめです。

  • 技術のぽっと出係数に応じてマネージャーに求める技術力の最適ポイントは変わる
  • 人事評価でマネージャーが技術力を測定するならマネージャーにも技術力は必要
  • エンジニアリングマネージャーに求められる技術力は年々上がる
  • 会社規模が小さいとプレーイングマネージャーの方が有利
  • 階層が深い大企業ほどマネジメント力がいきるポジションがある
  • 中途のエンジニアリングマネージャーの採用にコーディング面接は必要
  • 不況時にはプレイヤーの方が需要がある

その他、調整先が多い業態かでも合理的なチームトポロジーは変わりスクラム不要論に書きました。チーム分割についてはガイドラインを参照してください。