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富士通の崩壊事例から学ぶ上手くいくIT企業の評価制度の設計と運用

内側から見た富士通を読んだメモ

内側から見た富士通を読んだ

2004年の本でだいぶ古い本なのですが、富士通の成果主義の内部事情を書いた『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』を読みました。

元々年功序列だった富士通においてどう成果主義が導入され、どこが上手くいかなかった書かれた本です。著者という一人の視点でしかないのですが、タイトルからも分かるように上手くいかなかったことがほとんどというトーンで書かれてます。

富士通グループは2021年度だとで正規12.4万人、非正規1.2万人の大企業です。組織体制の話だとスタートアップが急成長する際のつらみなどはよく記事にされるのですが、大企業で細かく書かれた事例は珍しく感じました。

目次は以下の通りです。

  1. 急降下した業績
  2. 社員はこうして「やる気」を失った
  3. 社内総無責任体制
  4. 「成果主義」と企業文化
  5. 人事部の暗部
  6. 日本型「成果主義」の確立へ

ひたすら問題をあげた後に最後に著者なりの提案が書かれています。著者の提案には同意するところもあれば違うのではというところもあったので、簡単に起きた問題をまとめた上で、著者提案は無視して自分なりの提案をしてみたいと思います。

なお、この本は20年程度前の古い本であり、現在は十分に改善された可能性はあります。2020年に富士通は高度IT人材に年収3500万円出す人事制度を発表しています。

評価制度を徐々に導入

1993年に富士通では成果主義による目標管理制度を導入しています。全体を一気に変更でなく管理職のみの導入です。

成果主義の思惑には賃金カットもあるので管理職からの導入には賃金の高い=効果の高いという意味もありそうですが、一般に制度変更を部分的にトライアルしてみること自体はいい面もある気はしますね。裁量労働制、等級制度なども同様に上位層から導入されています。

富士通の評価制度は等級と目標管理で決まります。等級はざっくり以下の通りです。

3級 高卒
4級 大卒
5級 院卒
6級 主任、係長
7級 課長
8級 部長
9級 事業部長
10級 本部長

目標管理は目標を設定した上でSA, A, B, C, Eの5段階評価で決まります。Eはほとんど出ないそうです。

起きた問題

びっくりするくらい色々トラブっているのですが、起きた問題で代表的なところだと

  • 目標設定が適当
  • 評価が不公平
  • 管理職の評価方法が未確立
  • 相対評価による弊害

がありました。

目標設定が適当

目標設定をしたものの、部署内ではほとんどチェックせず人事が評価する仕組みだったようです。大企業ですから人事は全ての人員の目標を読みきれず、結果テキスト無視で残業や病欠などを見てなんというか頑張っている感で評価が決まったとか。

評価が不公平

部長と課長の連携が弱いようで、一番メンバーの働きをよく知っている課長は評価会議には出れませんでした。人事に所属していると評価が有利だったり部署ごとのばらつきもあったようです。

管理職の評価方法が未確立

降格制度がなく、年功序列から成果主義に変わった影響で、年功序列で十分に昇進してから評価制度が変わった人は居座れた反面、若手の昇進が進まない状況だったようです。また管理職自体の評価方法が未確立でした。

相対評価による弊害

目標管理はSA, A, B, Cの割合があらかじめ決められていたそうです。その結果年配の部長の部下だけ優遇されたり政治的な判断要因が増えたとか。

後に形式上絶対値評価になりましたが、ボーナス支給額の予算は固定なので意味はありませんでした。

どうすれば問題が起きるのを防げるのか

目標評価のウェイトを下げる

年俸制の会社もあるのですが、伝統的に日本企業の人事制度では基本給とボーナスが分離されています。基本給がグレード、ボーナスが目標設定をベースとなることが多いです。

2021年のトヨタだと賞与が6.0ヶ月で、年収のうち1/3がボーナスになります。富士通の事例で言えば、目標設定が年収に与える影響が比較的大きかったようです。

年功序列からの移行だったり、評価制度がないところからの新設の場合、目標設定の評価が年収に与える影響を少なめにするのがよいと思いました。

人事評価をその人の基礎技能(コンピテンシー)をベースに実績で調整と捉えた場合、ボーナスなしの年俸制が基本技能より、成約件数か何かで完全に決まるとインセンティブ重視と捉えられると思います。年功序列はその人のポテンシャルがベースになるため一気に目標設定に振るより徐々に割合をずらしていった方が問題が起きづらいかと。

ただ、スタートアップなんかだと半年後ピボットしていることもありますし、目標設定の有効性は疑問が生じることも多いと思います。目標設定の仕組みは0=>1に近いほど目標自体が変わって運用にのらないかと。その場合ビジョンの浸透などのツールとしての目標設定と割り切り実際の待遇への反映は少額でもいいと思います。

実際、企業によって年に1回履歴書を作り、転職エージェントに渡した上で、その人の転職した際の年収ベースに評価を決めている会社もあります。

技術の流行廃りはあるのですが、営業などと違い技術者の貢献は単年度の頑張りでそれほどブレがある類のものではないと思います。成果主義といった際、目標設定だけを盲信しすぎるのが失敗の原因でその人のポテンシャルの専門性評価も考慮した方が良いです。

課長の上司は定期的にサンプリングする

そういう意味でメンバーの日々の業務をちゃんと上司の上司が言える状態にしておくのがいいと思います。目標設定を評価委員会が中立に評価するのは大事なのですが、評価の時期だけ焦っても公平にはなりにくいのかなと。とりわけコンピテンシーにあたる部分を任せているとして放任してしまうと部署ごとのばらつきが出てしまう。

例えば1チーム8人の課が5つ集まって40人で部だとして部長は月~金にそれぞれの朝会に参加すれば雰囲気を掴むことができます。低パフォーマンスのチームがあればやり方を改善できたりするかもしれません。定期的に階層を飛び越えて1on1をするのもいいですね。

部下から管理職への評価も考慮する

管理職自体への評価はメンバーより難しい問題です。数字を握っている部署なら全体の総計を評価とすることもできるのですが、必ずしもそうではない。

360度評価はメンバー間同士だとなあなあであまり評価に差が出ないという話もあるのですが、部下から管理職への評価は取ったほうがいいと思います。最近は人手不足でメンバーの働きやすさの評価が役員の報酬に反映される会社もあります。

優秀なプレイヤーほど部下に辛く当たってしまっていたり、外から上手くいっているように見えても闇を抱えているチームは意外と多いものです。

二点評価で絶対値評価の爆発を防ぐ

評価は評価委員会を通じて公平を担保するように努めるとしても人間緩めの目標を設定しようとする生き物だと思います。そういう意味で目標設定にコミットターゲットの二つの目標を入れるのはいい手法かもしれません。

2点見積もりの要領で目標を二つに分けます。

コミットは普通にやっていれば到達できる目標です。100点満点ならコミットを達成できれば50点です。

ターゲットは頑張れば達成できそうな目標です。100点満点なら100点です。コミット5割増しくらいのイメージでしょうか。

1点見積もりから2点見積もりに変えることで評価設定のブレを少し抑える効果があります。

それでも絶対値評価で予算が気になるなら前述の通りコンピテンシー重視の評価制度に移った方がいいと思います。

所感

古い本ですが読み応えがありました。一つの事例として面白いので是非読んでみてください。