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There's More Than One Way To Do It

PMに技術力は必要かの論点

たびたび話題になるのでまとめてみる

PMに技術力は必要かのトレンド

以前エンジニアリングマネージャー/テックリード、テックリード/リードエンジニア、バックエンド/フロントエンジニアの区分けについては論じました。

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同様にPMに技術力は必要か、エンジニア経験は必要かも度々議論になるポイントです。必要となった際にRailsからはじめるといいのではが自分の主張ですが、前提のどういった際にPMにエンジニア力が必要かについて論じてみたいと思います。

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PMが表すものが多様問題

PMが指すものは多様ですが、分解するとこんな感じになると思います。

  • Product Owner
  • Product Manager
  • Product Marketing Manager
  • Project Manager
  • (Development) Manager
  • Project Management Office
  • Technical Program Manager

一番求人数が多いのはProduct Manager、ついでProject Managerでしょうか。

  • Product Owner

Product Ownerは事業責任者です。Product Managerと一緒のパターンもあるのですが、分離されているパターンも見ます。

CTO出身の方がCEOをやる合理性の一つに社員の構成比率でエンジニアが50%を超えているかが一つの判断軸ですが、Product Managerも開発よりなので営業出身か、開発出身かでいうと営業が多い会社だと分離パターンの方が多いかもしれません。

  • Product Manager

一番求人数の多いロール。プロダクトの仕様を決めます。Product Marketing Managerと分離していないProduct Managerだとユーザーヒアリングもします。

Product Ownerが別にいる会社だと大枠のプロダクトの方向性は決まっているので、細かい部分の仕様を決めるのが主担当。

デザイナー比率が低い会社かも一つのポイントですが、ざっくりしたワイヤーフレームを作るのもProduct Managerがやり、細かく詳細を作るのはデザイナーというパターンもあります。

  • Product Marketing Manager

SaaSの会社ではユーザーヒアリングなど営業かカスタマーサポートよりの顧客意見をまとめる部分をProduct Marketing Managerがやり、開発側をProduct Managerがやるという分業パターンはよく見られます。

営業は出社でエンジニア/デザイナーはリモートOKという会社もありますが、Product Manager, Engineering Managerは調整ごとがあるので微妙なラインで出社が必要側になることもあります。

Product Marketing ManagerはPMの分類の中では営業よりで比較的出社要求が高い業態だと思います。

  • Project Manager

日程管理部分を担当するのがProject Managerです。

SIer系の求人だとProject Managerはエンジニア出身で基本的に実装レベルでのシステム開発の知識がある程度あることを期待していることが多いです。

Web開発でProduct Manager、エンジニアしかいない企業だとどちらがやるかが揉めやすい部分です。

ゲーム開発だと調整ごと担当はディレクターという名で呼ばれることもあります。

  • (Development) Manager

開発のマネージャーです。

Web開発だとチームのエンジニア比率が50%を超えているのでエンジニア出身のマネージャーが担当する方が合理性があるように思います。

一方で技術力もマネジメントもできる人が欲しいパターンだと結局採用できておらずPMがマネージャーを兼務しているパターンも見ます。

  • Project Management Office

SIerやコンサルの会社だとSaaSに見られるProduct Manager/Product Marketing Managerという職種範囲の分割でなく、PMは合体したまま担当範囲を分割するようなPM組織の形態があります。

Owner PMの配下のPMがProject Management Officeと呼ばれます。

  • Technical Program Manager

Amazonなど外資系であるパターン。これは明確にエンジニア出身であることがジョブディスクリプションで書かれているPM。

外資系でよくあるソリューションアーキテクトは比較的エンジニア+営業というか顧客折衝のできるエンジニアといった感じですが、Technical Program Managerは技術力のあるProject Managerやアーキテクトに近いロールです。

前置き長くなったのでどういう時にPMに技術力がいるのか論じてみます。

産業が成熟してくると職種間のラップ範囲が増えるのでPMは技術力が必要

日本全体で見ると一担当からマネージャーになる年齢は平均して40歳だそうです。IT系の企業、とりわけ新興企業だと平均年齢も下がりマネージャーに上がる年齢も下がります。

一般論として業界が成熟してくると担当とマネージャーのラップ範囲が増え、どちらの職種でもできるカバー範囲が増えてきます。PMも例外ではありません。

実際電機、機械系のメーカーだと初期はまず技術者をやってからPMになることが多いですし、ソフトウェア産業が成熟してくると全ての職種が少しずつ総合職化する、市場平均のPMのできることが増えるのでエンジニア経験があるPMの割合が増えていきます。

AIはフルスタック化を加速させるのでPMに技術力が必要

AIが何でも答えてくれるようになり、エンジニアでもフロントエンド/バックエンド片方しかやっていなかった人でも両方やる、モバイルや機械学習の領域に踏み込みやすくなります。デザイナーがReactを覚えデザインエンジニアにジョブチェンジした事例もありますね。

AIによって学習の高速道路が整備され、エンジニア視点でいうとPMの粒度が違うというか、iOS開発を覚える、Laravelを覚えるといった同軸でPMスキルをつけるが語られることもあります。PMは技術の中の一つと同等の学習難易度と考える人もいます。

新卒のキャリアパスと整合性をとるためにPMに技術力が必要

PMだけではないですが、ベンチャーだと初期は中途しか採用しないというパターンは珍しくありません。

とあるタイミングで新卒で採用しようとなった際にまずはエンジニア、デザイナーからというパターンもあります。そういった際に新卒のキャリアパスとしてエンジニア/デザイナー経験を積んでからしかPMになれない会社において中途の要件もそうしないと新卒とずれてしまい一貫した評価制度の運用が難しくなります。

実際統計上エンジニアの10人に1人は将来のキャリアパスとしてPMを希望しています。

エンタープライズ開発しか果実しか残っていないのでPMに技術力が必要

以前にも書きましたがソフトウェア開発の作るプロダクトにはトレンドがあります。ざっくり言うとtoCゲーム=> toC Webサービス => 中小企業向け toB Webサービス => 大企業向け toB Webサービスという流れがあります。

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最近のSIerはJavaではなくRailsの開発もするという話がありますが、Web系/SIerという分類をしたときにWeb系の企業の方がtoCのゲームより生業にしていて、SIerの方がtoBの大企業向け(エンタープライズ)を生業にしています。

古典的に言えばWeb系の方がPMにエンジニア経験要求は少なめ、SIerの方がまずエンジニアを経験してからという企業が多いです。エンタープライズの方が機能数 x 機能の深さで言うと機能の深さ方向がプロダクトの強みであり、純然たるシステム開発になるからだと思います。

toCや中小企業toBでの起業されていない領域が減っている傾向はあり、スタートアップでもエンタープライズ開発をやる企業が増えています。従来SIerがやっていた領域にスタートアップが踏み込むとコンペによる競争上、PMがエンジニア経験がないと負けやすい可能性はあります

営業のできないBizDevはBizDevとして弱いのでPMに技術力が必要

BizDevにおいて何が重要かというと司令塔のようなものはあまり求めれていなくて営業が一番大事と主張されるBizDevの方はいます。

職種をざっくり営業か開発かに分けた際に、実装のできないPMはBizDevとも捉えられて仮にPMが営業できないならBizDevとしては弱いという見方もできるわけです。

日本は事業会社にIT部門がないのでPMは技術力がなくても食っていける

AIによって需給が今後悪化する可能性はありますが、ソフトウェアエンジニアは他職種よりx1.1くらいの給与テーブルの会社が多いです。需要と供給上そうしないと採用できないからですね。

国際比較してみるとこういった職種間ギャップは結構国差が現れる部分で例えばGoogleだとPMはエンジニアより給与が低い職種です。

日本のフリーランスの職種別待遇をみるとPM=Webディレクターとして捉えるとエンジニアより給与は低いです。プロジェクトマネージャーだとエンジニア経験を求められる場合も多いですが、単なるエンジニアよりは待遇がいいですね。

インフラエンジニアでもコアな領域なので外注しないという会社もあり、PMも比較的外注しない職種ではあり難しいところなのですが、仮にPMのスキル要件がWebディレクターとプロジェクトマネージャーの間とするとエンジニアととんとんくらいですかね。

日本は比較的IT部門が事業会社になく開発会社として独立しています。何次受けの開発というのもよく聞く話ですね。

逆にいうと本来一つの会社で全て作っていればそこまで調整役が不要だったものが、開発会社が複数にまたがりそれぞれの会社にPMがいるせいで無駄にPMの需要が上がっている可能性はあります。多重下請け構造が続くならPMは技術力がなくても需要がある説。

コンサルを名乗ると単価が上がるのでPMは技術力がなくても食っていける

IT限らずどの業界でもそうなのですが、同じようなことをしていてもコンサルを名乗ると急に単価が上がるケースはあります。

ChatGPTなどのAIの普及によるコンサル需要の低下からか、フル出社要求の会社も増えリストラの事例もあるのでそこまで安泰かというと将来不安な要素はあります。

それでもPMの一部はProduct Owner的というかコンサルになる人もおり、仕事内容がコンサルに近いならPMは技術力がなくてもエンジニアと同等かそれ以上に食っていける職になりえます。

PMに技術力が必要になってくるならこの先どう生き残るか

仮にPMに技術力が必要になってくるならこの先どうやって生き残るといいでしょうか?

一つの作戦はtoC企業に転職することですね。toB事業、とりわけエンタープライズ開発だとエンジニア経験が求められがちなので求められない領域で戦う。実際エンタープライズ企業だというとForward Deployed Engineerという客先常駐に近い、エンジニア兼営業兼PMが全部やればいいに近い職種が求められるケースもあります。

技術力をつけてしまうのも一つのやり方ですね。RailsガイドをやるでもよしUdemyをやるでもよし、エンジニアでもフルスタック傾向はあるのでChatGPTなどのAIを使い、いずれPMとエンジニア、デザイナーのラップ範囲は増えていくので学んでしまうのも一つの作戦。

営業経験も積むのも作戦ですね。PMMなどより顧客よりのジョブにシフトしていき営業に同行しながら徐々に営業スキルを盗んでいきProduct Owner, 事業責任者を目指すのも一つの作戦だと思います。

PMに技術力が必要な市場環境になったら経営者はどうすべきか

仮にあなたが経営している企業が今後の方向性を考えたときに、例えばエンタープライズ領域などエンジニア経験のあるPMがよりいきやすいエリアにしか活路が残っていなかったとします。どうするといいでしょうか?

本当に必要なら従来PMとは別にTechnical PMをおいてしまうのも一つの作戦です。仮に今の給与テーブルがPM x 1.1 = エンジニアになっているとしてエンジニア経験が5~10年以上のPMならTechnical PMとしてエンジニアと同じ給与テーブルにのせてしまうもの一つのやり方です。

まとめ

まとめです。

  • PMが表すものは多様
  • 産業が成熟してくると職種間のラップ範囲が増える
  • AIはフルスタック化を加速させる
  • 新卒のキャリアパスと整合性をとるとPMにエンジニア経験が必要となるケースもある
  • エンタープライズ開発だとPMにより技術力が求められる
  • 営業のできないBizDevはBizDevとして弱い
  • 日本は事業会社にIT部門がないのでPM需要はそんなに悪くない
  • コンサルの単価はエンジニアより高い
  • PM生存戦略はtoC企業に転職、技術力をつける、営業力をつける
  • 経営者は必要なら賃金テーブルの違うTechnical PMを置くのもあり

好きを仕事にしようとする思いが強すぎると失敗しやすい

科学的な適職を読んだメモ

科学的な適職を読んだ

科学的な適職という本を読みました。ビジネス書グランプリ2021 5位の本です。表紙がメンタリストのDaiGoですが書いたのは別の人。

よくある著者の経験ベースの雰囲気ビジネス書と違い研究ベースが良かったので紹介します。

7つの大罪と7つの徳目

目次通り、仕事選びにおいて7つの大罪と7つの徳目があるとしてその詳細を紐解いていく構成になっています。

7つの大罪として

  • 【大罪1】好きを仕事にする
  • 【大罪2】給料の多さで選ぶ
  • 【大罪3】業界や職種で選ぶ
  • 【大罪4】仕事の楽さで選ぶ
  • 【大罪5】性格テストで選ぶ
  • 【大罪6】直感で選ぶ
  • 【大罪7】適性に合った仕事を求める

があげられており、これで選ぶと幸福度は上がらない、逆に7つの徳目をベースに選ぶと幸福度が上がりやすいという主張です。

  • 【徳目1】自由
  • 【徳目2】達成
  • 【徳目3】焦点
  • 【徳目4】明確
  • 【徳目5】多様
  • 【徳目6】仲間
  • 【徳目7】貢献

その主張には共感できたところも共感できなかったところもあるのですが、印象的だったいくつかの話を抜粋して紹介します。

二択で考えると失敗しやすい

オハイオ大学が一流企業で働くCEOやCOOを調べた研究では意思決定の際に3つ以上の選択肢を吟味したビジネスパーソンは29%のみで2択だけで意思決定をした場合の失敗率は52%、3つ以上の選択肢を用意した場合の失敗率は32%。


似たような主張は他にも出ていて視野狭窄にならない方がいいのはそうですね

好きを仕事にしようとする思いが強すぎると失敗しやすい

2015年のミシガン州立大学の研究によると好きなことを仕事にするのが幸せという適合派タイプと仕事は続けるうちに好きになるものだと考える成長派タイプとを比較すると適合派の幸福度が高いのは最初だけで、1~5年のスパンで見た場合、成長派の方が幸福度、年収、キャリアのレベルは高かった。

2014年のロイファナ大学の起業家へのアンケートでは仕事に情熱を持てるかどうかは人生で注いだリソースの量に比例するそうです。


適合派は給料 < 満足度、成長派は給料 > 満足度なので年収やキャリア部分は順当といった感じですが幸福度で適合派が勝たないのは意外ですね。給料と仕事の満足度は0.15の相関係数しかないそうなので、どんな仕事にも嫌な部分があるということでしょうか。

エグゼクティブの方が健康で幸福度が高い

社内で高いポジションにいるエグゼクティブほど健康で幸福度が高い。周囲の部下よりも仕事の量が多いにもかかわらず、風邪や慢性病などにかかりにくく、日中の疲れを感じずらい。


ここは相関が逆な気がしますね。本書の中で一番主張が疑わしいポイントでした。体が強い人が昇進しているのかなと。

仕事のパフォーマンスはワークサンプルテスト、IQテストが相関が高い

フランクシュミットとジョンハンターによる過去100年の仕事のパフォーマンスを事前に見抜く方法のメタ分析によると適性検査の信頼度は以下。

  1. ワークサンプルテスト(0.54)
  2. IQテスト(0.51)
  3. 構造的面接(0.51)
  4. ピアレーティング(0.49)
  5. 職業知識テスト(0.48)
  6. インターンシップ(0.44)
  7. 正直度テスト(0.41)
  8. 普通の面接(0.38)
  9. 前職の経歴(0.18)
  10. 学歴(0.1)

ワークサンプルテスト強いですね。IQテストが思ったより高いので学歴を信じず新卒でSPIテストやるのもある程度合理的でしょうか。地頭の良さが重要なのは自分の経験とも合っています。

女性と男性で幸福になりやすい自由が変わる

女性と男性で幸福になりやすい自由が変わる傾向があり

  • 女性: 仕事に取り組む場所とタイミングの自由が効くほど幸福度は上がる
  • 男性: 仕事の進め方と作業ペースの自由が効くほど幸福度は上がる

とのこと。


子育てを受け持ちやすい女性ほど場所を気にする傾向なのはそうですね。

所感

類書として2023年に読んだ「科学的に正しい筋トレ 最強の教科書」や「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」もエビデンス豊富で好きです。

他にも大量に研究紹介があったのでぜひ読んでみてください。

一方で7つの大罪と7つの徳目が仮に真実だとしてもVUCAの時代、M&Aやトップの変更によって業務内容が変わることはありますし、ベストフィットを探しすぎても労力に見合わないこともあるかもしれないとも思ったりします。

https://www.amazon.co.jp/dp/B082NWJHND

[Qiita投稿] チームのパフォーマンスは3年がピーク

論文メモ

Qiitaに投稿しました

Qiitaに「チームのパフォーマンスは3年がピーク」を投稿しました。

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所感

ChatGPT o3にその後の論文を調べてもらったのですがだいぶ優秀ですね。他の論文も面白そうです。

  • Keller, “Predictors of the Performance of Project Groups in R&D Organizations”, AMJ 29(4), 715‑726 (1986)

Katz 1982 の負の線形関係を部分再現しつつ、タスク不確実性が媒介することを発見

  • Keller, “Technology–Information‑Processing Fit…”, AMJ 37(1), 169‑179 (1994)

情報処理需要と構造の適合(TIPS)モデルで、 外部情報網の縮小が高テク環境では致命的であることを示す

  • Marlow et al., “Does Team Communication Represent a One‑Size‑Fits‑All Approach?”, OBHDP 144, 145‑170 (2018)

9,000 超のチームを集計し、頻度より質がパフォーマンスに効くと結論。Katz 1982 の「量」に質的側面を補完

  • Groulx, Johnson & Harvey, “Team Readiness to Change: Reflexivity, Tenure, and Vision in Play”, JABS 59(3) (2023)

組織変革期における チーム熟達度(tenure) × リフレクシビティ の交互作用を検証。 長期チームでも内省的対話があれば「変革準備度」が高まると示す

[Qiita投稿] 2024年に1日1冊読んだ中でよかった技術関係の本トップ10

2024年読んだ本まとめ

Qiitaに投稿しました

Qiitaに「2024年に1日1冊読んだ中でよかった技術関係の本トップ10」に投稿しました。

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一言

2024年の目標の一つがアーキテクチャの知見を深めるだったので深められたのはよかったです。

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Manager of Manager(部長級)ポジションで動くときに気をつけること

日々精進

異世界転生してもすぐに昇進するのがスタートアップ

スタートアップは常に人手不足でコードも書けるEMみたいなポジショニングをしていると任せられる範囲が次第に増えていくことがあります。何度案件が変わっても、最初は単なるエンジニアとして参画しても割合すぐに任せられる範囲が増えるので天職なのでしょう。

時にはフロントエンド、バックエンド、モバイルアプリ、インフラ、機械学習の各チームに対して技術顧問しながらマネジメントして欲しい(意訳)みたいな超人級の要求をされることをあります。

残念ながら技術部分については全てのジャンルについて一流の域にはまだ到達できてはいないんですが、マネジメント部分については再現性や汎用性が高いところもあり自分なりにこうするといいのでは?というアイディアをまとめておきます。

マネジメントの半分(以上)は可視化

どの専門性においてもポジションが上がるほど不確実性が高いぼやっとした要求が増えていく傾向にあります。タスクを分解してとある専門性の職種に投げられる状態になっていれば仕事の半分は終わった状態です。

そういう意味でマネジメントの半分(以上)は可視化であり、任意のマネジメントにおいて偉ぶるだけで確実性を上げてくれないマネージャーがいたらその人がいるバリューは少ないでしょう。

管理職を分解した事例が増えている

ポジションが上に上がるにつれまず最初にした方がいいのは期待値調整でしょう。100日プランについては以前記事を書きました。

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例えば部長のロールを一人の人間が担うのは限界があると定義した企業があります。

日揮では従来の部長を3つに分け

  • 部長
  • CDM(キャリアデベロップメントマネージャー)
  • PCM(プロジェクトコーディネーションマネージャー)

のロールがあります。

リクルートでは2023年から順次管理職をヒトマネとコトマネに分業しているそうです。

日本において平均勤続年数は12年であり、(それはある種日本的弱さだとも思っていますが)転職においては管理職はなくメンバーレベルでしか認めていないという企業もあり、管理職ほど企業間のばらつきが大きい認識です。

とりわけ職位が上がるほど周囲の期待値を合算すると超人になってしまう傾向にあります。

ジョブディスクリプションポーカーでロールを可視化する

そいうった場面で有効なのがデリゲーション・ポーカー、ジョブディスクリプション・ポーカーです。

メンバー <=> 課長間、課長 <=> 部長間のような階級間のデリゲーションやエンジニア、デザイナー、PMのロール間のボールの可視化をするとチーム間のばらつきが減り配属ガチャを減らせます。

企業によってはさらにエンジニアのキャリアラダーを専門性やリードエンジニア/テックリードに分解してもいいかもしれないですね。それぞれ論点を各記事にまとめています。

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ミッションビジョンバリューのアセスメントへの落とし込み

ロールの分解が終わったら次に必要なのはアセスメントへの落とし込みです。

一般にミッションビジョンバリューがあり浸透している企業の方が従業員のコミット感が高く離職率も低く仕事のアウトプットもいい傾向にあります。一方でミッションビジョンバリューがあるものの評価制度への落とし込みが上手くいっていない企業はたまにみます。

経済的な報酬はもちろん良いほうがいいのですが、自分自身の仕事が評価されている感も重要でそこが上手くいっていない企業もしばしば見ます。

割合技術面を自分は任されることが多いので、人事よりの関与は少なめですが、時折考えを求められることがあるので他社の事例を交えつつ、評価制度の設計や自分がどういう人を評価しているかをお伝えすることはあります。

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マネジメント、合意形成の仕組み化

こういうロールや評価の明文化をしていっても、オペレーションとの乖離はあります。病んでしまう人や喧嘩が起きることを減らすためには定期的にマネージャーによる1on1によるガス抜きが必要な認識です。

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メンバー自体の専門性の研修と比べてマネージャー自体の研修はそこまで確立していない傾向にあります。残念ながら日々の業務に忙殺されてできてはいないんですが、ここは一般的な資格をベースに勉強会をするといいのでは?というアイディアはあります。

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教育のやり方なんかもある程度ガイドラインがあってもいいかもしれないですね。

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定期的に全体の会議を開催したりご意見募集を募れる仕組みの構築も重要です。Manager of ManagerとManagerの差分として求められることがチーム間の配属ガチャの最小化で休みの取りやすさ、ドキュメントの書き方、仕事の進め方、実装方針だったりの(少なくともマイナスの)差分を極力減らすことにあると思っています。

ご意見募集はなんでもいいですが、GitHub Discussionsのような機能があると要件を満たせそうです。

技術的負債の状況の可視化

プロダクトの新規開発と技術的負債の解消どちらを優先するかは1チームでもしばしばエンジニア比率の低いエンジニアの立場の弱い組織ではプロダクトの新規開発に技術的負債の解消が負けることはあります。

一方でGoogleの論文によればコード品質は開発生産性に最も影響するファクターであり、技術的負債のある状態はある部分の開発速度を下げます。該当部分の将来的な開発予定 x 技術的負債の面積が多ければ本来は先に技術的負債を解消した方が投資効率で勝つ部分もあるわけで、技術的負債の解消の優先順位を上げてもらえない場合、その部分の可視化がうまくできていないことも多いです。

これが複数チームになるとよりマトリックスが複雑になり全体のチームの中でどこに投資するといいかを可視化する難易度が上がります。ラベルのルールや議題上げの仕組みづくりをしていくと全体の技術的負債がどこにあり何に投資すると効率がいいかを可視化することができます。

マネージャーの割合とルールの割合の最適化

ここまで可視化や仕組み化についてまとめてきましたが、一方でルールを徹底するのもマネジメントコストがかかることは認識する必要があります。

人間が覚え切れるルールは一つにつきせいぜい3つくらいに思ったほうが良くてどんなにドキュメント化しても集団を同じ方向に向かせるためには労力がかかります。とりわけマネージャー自体の採用に上手くいっていない場合、細かすぎるルールを作っても運用に乗りません。ルールを徹底する人とルールの量のバランスは常に気にしてルールは極力最小化する必要があります。

プログラマーの能力はばらつきがあり人が違えば最大10倍差があると言われます。言ってしまえば低パフォーマーを3人雇うより1人の高パフォーマーを高待遇で雇った方が効率がいい可能性はあります。

スタートアップの組織設計の論文によれば全て一流が全てのフェーズで高パフォーマンスであるわけではないんですが、ルール化は全員を高パフォーマーを揃えられない場合の苦肉の策である面も認識する必要はあります。

感情労働で疲弊しないための切り替え作り

結構気を使って上手くまわるための仕組みを作っていっているつもりですが、それでも不満のあるメンバーは出てくる時はあります。時には感情労働を要求され疲れてしまう時もあります。

正攻法で言えば新規のメンバーをサイバーエージェント流に素直でいいやつで揃えていくのは大事ですが、既存メンバーはそうそう入れ替わりません。

人により寝る、誰かと話す、趣味に没頭するなどガス抜きのやり方は色々ですが、職位があがると自分に1on1してくれる人がいないみたいな時も起こりがちで、メンタルを病まないための対策は自己防衛としてより持っておいて損はないです。

すべての技術の価値は時とともに下がるので技術者の生存戦略は2パターンある

せいぞーんせんりゃくー!

VUCA状況下では人生3~4回は転職しないと食いつなげない

時代の変化が速くなったと言われることがあります。かつては世界の時価総額でトップに躍り出ていたこともある日本企業も今は見る影もありません。

上場企業のトップ10の移り変わりの速度も30年くらい前だと30年ごとに変わると言われていたそうですが、最近だと10年ごとに変わるとも言われており、儲かるビジネスの移り変わりの速度が速いVUCAの時代に入っているわけです。

そういう時代では企業の倒産も増え、一生を同じ企業で過ごすというより人生3~4回は転職しないと食いつなげない時代になったとも言えます。

特定技術を作った製品は時間が経つと作れる人が増える

メーカーなどでもリストラや早期退職者募集がされることは結構あります。特定ジャンルの製品をもう作らなくなったので工場閉鎖や部門ごと撤退というのもニュースでよく聞く話ですね。

かつて三種の神器と言われたテレビ、洗濯機、冷蔵庫を作る難易度は昔も今も変わらないかというとそうではないでしょう。薄型テレビだったり、ドラム式洗濯機だったり、画像認識してくれる冷蔵庫だったり付加価値を持った商品は今でも売れていますが、普通のテレビや洗濯機、冷蔵庫は中国メーカーの製品が電気屋に並んでおり、登場した時期が古い家電を作れる会社は登場当時より増えているでしょう。

既存製品の分解やノウハウの体系化、人材の移動なんかで他社製品の作り方というのは時間と共にノウハウはコモディティ化する傾向にあります。

特許は一つの防波堤だがそれでも20年で終わる

そういったパクリを抑止するための一つの仕組みが特許なわけですが、特殊ケースを除き20年で知財の期限が切れます。そこからはパクリ放題ですね。

家庭用3Dプリンターなんかも特許権切れが普及の原因となったとも言われています。

特許以外でもデジタルカメラなんかだとスマホの登場、全く別ジャンルの製品の登場によって市場が食われています。

技術者の専門性へのベットは時にもリスクがある

例えば営業なんかは製品がスイッチしても食いつなげるスキルです。新しい商品の仕様や売り文句なんかは覚えないといけないですが、営業行為そのものは必ず型さえ決まってしまえば流用はできます。

技術者も類似ジャンルならある程度対応できますが、専門性をつきすめすぎるとピーク時こそその専門性の価値が他職種より高いので高給である合理性がある一方で、リセッション時には技術力の価値が暴落することもある職種です。

車のEV化の流れで内燃機関を作る能力の価値は下がり、EVを作れる技術力の価値が上がることもあるでしょう。

技術者の生存戦略の2パターン

こういったリスクを減らすために技術者はどういう生存戦略を取るといいでしょうか?

主に

  • 技術の専門性を生涯の中で何度かスイッチし専門性の高さで勝負するパターン
  • 技術の専門性を軸に技術以外の能力を増やし活躍の場を増やしていくパターン

の2つがあると思っています。

技術の専門性を生涯の中で何度かスイッチし専門性の高さで勝負するパターン

技術の専門性を生涯の中で何度かスイッチし専門性の高さで勝負するパターンは特定技術を使った売れる商品が生涯に渡って需要が出てくることに賭けるパターンです。

ITだとWebサービス => SNS => スマホゲーム => IoT => VR => SaaS => 機械学習などトレンドとなる商品群やワードは数年ごとに変わっていますね。

今の所仕事がなくなるほどのトレンドワードの断絶は起きていないですが、例えばLINE Clovaの終了やAmazon Alexaの赤字報道などVoice Assistant端末は割合不採算の事業だったとは言えると思います。

今後もバズワードが出てくれば、学び直しによって最速でキャッチアップすればその瞬間そのジャンルに一番詳しい人になれ食い繋げていくわけですが、特定技術を使った売れる商品が出てこなくなった際に市場価値が下がるリスクはあります

家電だとそういったトレンドの消失によって、マイナスイオンだったり似非科学ぽいアピールポイントを作らないと新規性を生み出せなくなった時期はありましたし、LLMの学習なんかでもみられるように計算資源があるかが大事で資本集約的になると企業視点だと必要なのは設備投資であり技術者に高給を払う合理性が低くなってくる可能性はあるわけです。

技術の専門性を軸に技術以外の能力を増やし活躍の場を増やしていくパターン

もう一つは技術の専門性を軸に技術以外の能力を増やし活躍の場を増やしていくパターンです。

基本的に1企業の事業を運営するための人材は売り上げが変わらないなら少ない方が有利です。現代的な会社は株式会社であることが多いので投資効率が良い方が投資されやすいですね。コミュニケーションパスが増えると認識齟齬が生まれるという観点もあって、事業を営む上で必要なスキルの全ジャンルできるスーパーマンの採用獲得性が十分に高いビジネスがあるなら極力マルチスキルな人で構成したほうがいいでしょう。

現実的にはどの会社でも営業、経理、エンジニアと職種を分けているわけですが、例えば技術営業やエンジニア出身のマネージャーは単なる営業やマネージャーより付加価値があるので評価されやすいです。該当技術がまだぽっと出の時はそれを詳しく知るノウハウが確立されていないので覚えたこと自体がバリューになります。

一方で例えば技術Aの技術者から技術Aもわかるマネージャーになった後にトレンドが技術Bに移ってしまうと技術Aがわかるマネージャーも技術Aがわからないマネージャーも一緒くたに技術Bがわからないマネージャーなので付加価値がなくなります。技術Aがわかるマネージャーをやりながら技術Bを習得するか、技術Aがわかるマネージャーofマネージャーで付加価値を出すかでしょうか。

プレーヤーとマネージャーのラップ範囲は年々増える

こういった2つのパターンは企業ではキャリアパスがうちではプレーヤーとマネージャーの2つがあるよと表現されることが多いです。

一定程度のレベルになったら途中からプレーヤーかマネージャーか選べるので管理職にもならずに専門性を極める生き方もありますよ、技術のキャッチアップをいつまでもせずとも管理職になる道もありますよと説明されることが多いです。

僕私はもう管理業務しなくていいんだ、技術のキャッチアップからは解放されたのだと思うでしょう。ここには一定程度のフェイクがあり、意外と市場ベンチマークを取るとプレーヤーとマネージャーのラップ範囲は年々増える傾向にあるように感じます。

新興技術を使っている企業ほど30歳くらいでどちらのトラックにのるか選べ成熟企業ほど選択のタイミングが遅くなり40歳くらいとなります。

技術のキャッチアップは年々楽になるので最終的には1スキル特化人材はつらくなる

おそらく新しくでた技術を商売にしている企業ほどその技術を使える人が少なくそれが売りにできればマージンが多いのだと思います。新興技術ほど該当技術を知っている人を採用するのは大変なので技術に強い若者+技術を知らないマネージャーパターンが初期のIT産業にはより多くみられたと思います。

一方でとある産業が成熟してくるとキャリア選択のタイミングは遅くなります。1マネージャーに対して5~9人部下がtwo pizzaルールでの最適点ですが、それを守るとマネージャーに上げるタイミングは遅くしないと椅子が足りなくなったりするわけです。

該当技術が普及するにつれてブログ記事や書籍、動画なんかも増えて上の下くらいまでの該当技術をキャッチアップすることがより簡単になるわけで、そのスキル1つだけの技術力で売っている人は1スキル特化人材はつらくなる可能性があるわけです。もちろん該当スキルの上の下から上の上になる方法は一般に公開されていない場合もあり、その上位の専門性が十分に需要があるならそこにベットし続けるのも一つの選択でしょう。上の上のスキルが評価され続けることにかける。

逆にキャリア選択するタイミングが遅くなってくるので、マネージャーのうち技術がわかっている人の割合は増えてくるので技術のわからないマネージャーはマネージャーofマネージャーになれないと周囲に対して見劣りするというか市場平均に負けることはあるかもしれないですね。

多くの企業でリストラが起きるのはラップ範囲の増加分を説明していないから

個人的にはこのラップ範囲の増加分を説明できないのが多くの企業でリストラが起きる、早期退職を急にやり従業員から不満が出るポイントだと思っています。

市場の人材とベンチマークをとった結果あなたの給料と同じ人材は1割程度安く採用することができるように3年後変わるようです。市場平均と合わせるために3年後の評価制度のスキル項目を増やしますも一つの誠意なのかなと。3年猶予を与えるので技術トラックの方は得意技術をもう一つ増やすか、上の上まであげてください、管理者トラックの方は他の技術者出身の管理者と同じくらい技術がわかるようにするか部長級のマネジメント能力を身につけてくださいとアップデートしていくのがサステナブルなのかなと。

キャリアの選択はでた目から最良の選択をしていく作業

キャリアを選ぶという言葉がありますが、キャリアを選べるということは稀です。

大企業だと全体最適化の観点で自分の希望が通らないこともありますし、逆にベンチャーならフルスタックエンジニアになりすぎて専門性が伸びないこともあると思います。

キャリアの選択はでた目、出す目から最良の選択をしていく作業でしかなく、会社の用意したキャリアパスと市場での評価に乖離を感じたら乖離分を埋めていけるとレイオフに強くどこでもやっていける人材になり人生のコントロール性が上がると思います。

急成長組織でも評価制度は必要だが目標管理制度はあっていない

評価制度と目標管理制度による評価制度は包含関係

急成長組織に評価制度は必要か

スタートアップのような急成長組織に評価制度は必要かというのは度々議論になるポイントです。シードアーリーよりで小チームの場合、少ない人数で回すためにマネージャー不在やプレーイングマネージャーがいるのみで専任のマネージャーがいないのもあるかもしれません。

評価をするのが億劫で全員一律の企業、自己申告ベースの企業、各々が仮想的な社内通貨でマイクロ取引をする企業など色んな業態があります。

一方でOrganizational Blueprints for Success in High-Tech Start-Upsというレポートでは意外と官僚型組織の成長率が高かったり、上場前後でパフォーマンスのよい組織形態が違うことが示唆されています。

実際Netflixの事例では一律の評価制度だとうまくいかず崩壊し途中で評価制度を変えたようです。

急成長組織の評価制度はどうすれば崩壊を防げるでしょうか?

評価制度と目標管理制度による評価制度は切り分けるべし

まず、評価制度と目標管理制度による評価制度を切り分ける必要があります。

一般に評価制度というと1年か半年に一度目標を立て、それを達成したかどうかで評価が決まるようなイメージを持っている人も多いのではないでしょうか。このManagement by objectives (目標による管理)は元を正せばドラッカーが提言したものをベースにしています。もしドラ、もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだらもベストセラーになりましたね。

ただ、ドラッカーの書籍「マネジメント」は1974年の本です。50年前に発案された手法を割合多くの企業が採用しているのは驚異的ですね。そういう意味で目標管理制度による評価制度は評価手法の一つでしかないわけですが、あまりにも流行ったゆえに両者を同一視している人も結構いるように感じます。

例えば、Ruby on Railsで有名なDHHの会社Basecampではその人が転職したらどんな待遇になるかを測った上で数割上乗せした待遇をその人の待遇としているようです。GoogleのガイドにはOKRは従業員を評価するためのツールではないと明言されているのですが、評価制度としてOKRを評価に使っている会社もちらほらあります。

安定期の企業は目標管理制度と相性がいい

T2D3という言葉があります。SaaS企業が投資対象になりうるかの事業計画の評価指標で5年で3倍、3倍、2倍、2倍、2倍と成長していくモデルです。インターネット業界にいると毎年倍以上成長というのがもしかすると起こりうることと享受してしまっていることも多いですが、この成長率はとても驚異的で例えばトヨタの売上高の成長率は5.8%です。

管理会計なんて言葉もありますが、事業計画の見込みのブレがどちらの方が少ないかで言えば当然成熟し安定期にいる企業でしょう。急成長企業や大企業でも新規事業の部門にいるとピボットという名のもとやることがコロコロ変わることもありますし、個々人の目標以前に企業、部門の大目標の安定度がなさすぎます。

そういう意味で自分の所属企業(部門)の年次成長率が何%かは議論のベースにあるべきで、目標管理制度は安定期にある企業の方が向いています

(小規模)急成長組織は市場とベンチマークするのが一番楽

では急成長組織だとどんな評価制度を採用すべきでしょうか?

評価とモチベーション向上を分けるのは一つのやり方ですね。モチベーション向上だとOKRは4半期がベースです。VUCAの時代では1年に1回の目標管理制度よりは事業の変動に追従はできます。一方で小規模組織だとそもそもの大目標OKRの策定コストが高いです。

(小規模)急成長組織は市場とベンチマークするのが一番楽というのはありますね。評価制度の曖昧な企業は採用基準も曖昧というのはよくある話で、なんとなく給料安くても入ってもらえそうなので採りましただったり、既存の人員の評価制度と実力に一貫性がないこともあります。

急成長組織ではないですが、エキサイトの事例でも人手不足の中で実際には手を動かす人の方が需要があるのに評価制度上は管理職にならないと給料が上がらないなどねじれが見られました。感度が高すぎても問題が起きることは確かにあるのですが、知らないより知っている方がいいので、市場とある程度ベンチマークしないとズレは大きくなります

そういう意味で採用基準と評価制度を同時に練り上げながら、ミッション・ビジョン・バリュー軸での社内独自評価と合わせて大枠で初期は評価するのではないでしょうか。富士通の事例では急に変えたので崩壊したので、段々と事業の成長率がとまってきて安定期に移りそうなタイミングで徐々に細かい目標管理制度を導入していくと緩やかにトランジションできそうです。

AssessOps視点だと評価制度がまわっていない企業はそもそも組織構造も定まっていないこともあるので評価制度と組織構造を合わせて整合性をとっていくのも大事ですね。

共通認識は評価制度以外でも取れる

目標管理制度による評価制度は企業が従業員に期待することのすり合わせの場でもあるわけですが、その整合性をとるやり方は必ずしもそれだけではありません。

例えば月一の定例でCEOが敢えて同じことを繰り返し言っているという会社さんもあります。chocoZAP運営のライザップでは相当数の有償ストックオプションが割り当てられています。

所感

その他の視点として日本のスタートアップはそれほど多産多死でない、急成長していない中小企業でしかないので目標管理制度でも十分という考え方もあります。

資金調達向けのラベリングと事業実態は分けてもいいのかなというところ。

[Qiita投稿] PM忙しいとエンジニアがPMに寄り添ってくれないは独立事象

問題は本当にコミュニケーションか

Qiitaに投稿しました

Qiitaに「PM忙しいとエンジニアがPMに寄り添ってくれないは独立事象」を投稿しました。

qiita.com

所感

職能別組織は批判されることも多いですが、マイノリティーのメンバーの人事評価は難しので、PM限らずデザイナーでも組織構造上PM組織やデザイナー組織にも所属してアセスメント上は必ずしもレポートライン上の専門外のマネージャーが100%しない方がいいのではと思う時はあります。

テックリードとリードエンジニア、どちらが評価されるかは企業サイズによる

プレーヤーを分解してみる

テックリードとリードエンジニアと言う分類

企業によっては人事評価制度上、プレーヤーとマネージャーが分けられていない企業もあるのですが、分けている企業の中ではプレーヤーをさらに分解していることがあります。ソフトウェアエンジニア職の中でもさらに職種で分けてフロントエンジニア、バックエンドエンジニアという場合もあれば、ざっくり全員エンジニアという場合もあるということですね。

その良し悪しは今回置いておきますが、企業によっては技術的専門性でなくざっくりプロジェクト推進か技術面での専門性を期待しているかでリードエンジニアとテックリードで分けているケースがあることを知りました。

日本のIT企業では技術的専門性よりプロジェクト推進力が評価される場合もあると長年感じていて、うまく言語化できそうなので今回見ていきます。

ゆめみ社の職位ガイドラインを読みこんでみる

評価制度が細かく公開されていることは少ないのですが、ゆめみ社は珍しく公開しています

定義は

  • テックリード: サブ・リードエンジニアとしての職位ガイドラインを満たした上で、高い専門性と設計・実装力があり、複数のプロジェクト・プロダクトに対して技術的な課題解決を行うことができる
  • リードエンジニア: エンジニアとしての技術的な専門性に加えて、プロジェクトリードとして成果を出している

となっています。

テックリードは"特定のプロジェクトだけでなく、複数のプロジェクトに能動的に関与して技術的な課題解決を行うことができている"とあり、リードエンジニアの方はビジネスコミュニケーションに加え、チームマネジメントの要素が加わるようです。リードエンジニアでも高い専門性は要求されます。

階層上テックリードと同じ階層にかかっているのはチーフリードエンジニアです。チーフリードエンジニアは"プロジェクトにおいて、複数チームを横断したチームマネジメントを行う事ができる"、"リードエンジニアに対してプロジェクトリードとしての育成を行うことができる"なのでプレーイングマネージャーのマネージャー要素も評価されるようですね。

プレーヤーとマネージャー、どちらが評価されるかは景気で変わる

プレーヤーとマネージャー、どちらが企業で評価されるかは以前論じました。

ja.algonote.com

いくつか論点がありますが、景気で変わる、不況時にはプレーヤーの方が需要があるが世の中の傾向としてあるようです。

テックリードとリードエンジニア、どちらが評価されるかは何で決まるでしょうか?

テックリードとリードエンジニア、どちらが評価されるかは企業サイズによる

一般に日本のIT企業はラーメン屋より多いと言われ、企業サイズが小さく、数が多い傾向があると思います。また、事業会社の中にIT部門があることが少なく、開発の会社が独立企業として存在している割合が他国より高いとも聞きます。

新規に設立されたIT企業、特にスタートアップではIPOを目指すわけですが、一般に日本の上場要件は他国より緩いと言われています。小さな企業サイズでも上場でき、20億円程度で上場した例があります。

例えばデータサイエンティストは初期のスタートアップには不要と言われることがあります。初期のプロダクトだとデータがないので分析ができるものがないだったり、ユーザー数が少ないので1%を改善するより新機能を作る方にリソースを割く方が収益に繋がりやすいという意見ですね。

同様なことは技術面でも言えます。例えば大企業運営のサービスだとアクセスが多い分、言語そのものだったりフレームワークそのものだったりを改善するモチベーションが高いです。使っている技術が1%でも高速化されるとユーザー数が多い分サーバー費用を減らせコスト削減の貢献絶対額が減るからですね。

Hard Techやセキュリティー、機械学習専門で受託しているコンサルよりの会社だと小規模でも専門性特化なことはあるのですが、一般に小中規模企業の方が研究開発の研究部門がないことが多いです。大企業でも調整ごとがないかというとむしろかなりあった記憶もあるので部門によるところはあるのですが、大企業の方がテックリードというか研究に近い部分を任せてもらえる職種が生まれやすく小規模企業の方がリードエンジニアよりというか事業推進が切り離せない傾向はあります。

なので、テックリードとリードエンジニア、どちらが評価されるかは企業サイズによるのではないか。

上場維持基準が変わる可能性

そういう意味で日本市場ではテックリードとリードエンジニアだとリードエンジニアの方が評価されることが多い気がします。それはIPOのしやすさによる企業サイズの小ささがあるからですね。

受託開発の比率が高いのもあるかもしれません。内部パッケージを開発している企業もあるにはあるのですが、受託開発の企業では事業会社より都度開発というか長期の内部資産を保有しているケースは比較的少ないように思います。

最近、グロース市場の上場基準を見直す動きがあります。上場10年後の時価総額の要件を引き上げようとするものです。旧マザーズ市場からの傾向ですが、上場ゴールというか上場後時価総額が下がる企業が多かったからだと思います。

https://www.jpx.co.jp/equities/follow-up/nlsgeu000006gevo-att/mklp770000002odz.pdf

海外投資家の投資対象が500億円程度とも聞いたことがあるので、引き上げてもまだ上場してから次の株主への橋渡しには足らない気はするのですが、成立すればより日本のIT企業の大企業化が進むと思います。

そうするとリードエンジニア優位だった評価制度がよりテックリードよりになることもあるかもしれないですね。

IT企業のチーム内ロール構成事例集

分業で組織のパフォーマンスを最大化する

他社のチーム構成をまとめたい

営業ができて技術もわかりコミュ力高く事業、プロダクト開発も推進してくれるスーパーマンで全て構成された組織があれば市場変化へ耐性も強いです。一方でそういう人は組織に属するメリットが薄くフリーランスなど別の業態での方が活躍できる可能性もあります。

会社という業態は言ってしまえば分業によってスーパーマンでない人、凡人の組み合わせで収益を上げる仕組みの側面もあって、投資家目線で言うと例えば法的参入障壁のライセンスを持っている企業が採用容易性の高い人材を採用してしまえば収益が100倍になるビジネスの方が投資対象になりやすい可能性があります。

IT企業においてインターネット上には各社のチーム構成の資料がちらほら上がっていることがあり、参考までにまとめておきます。

食べログ(2021)

https://qiita.com/tkyowa/items/c0eab592d5bc356eefd6

モバイルアプリの開発でチーム内にウェブとアプリのエンジニアを含む構成。

  • PM
  • EM
  • 企画 x 1
  • デザイン x 1
  • ウェブ開発 x 3
  • アプリ開発 x 2

くらいが標準的な構成か。

freee(2021)

  • PM
  • UXD
  • Eng x 4

あたり。

カンム(2022)

https://tech.kanmu.co.jp/entry/2022/03/02/105111

モバイルアプリの開発でチーム内にBizサイドも入っているパターン。

  • バックエンド/インフラ x 4
  • モバイル x 1.5
  • データサイエンティスト x 2
  • デザイナー x 2.5
  • マーケター x 3
  • PM x 1
  • 何でもやる人 x 1

メルカリ(~2022)

https://engineering.mercari.com/blog/entry/20220120-2fd1a3e4ba/

メルカリのみ遷移が書かれているので複数書いています。初期ほどPOとPMが分業しているパターン。

ローンチ期

  • PO
  • PM
  • Backend
  • iOS
  • Android
  • Frontend

グロース期

  • PJO
  • PM
  • Backend
  • iOS
  • Android
  • Frontend

PMM/EM体制期

iOS、Andoirdと技術軸ごとにチームとは別にレポートラインを持ちEMがいる。

  • PMM
  • PM
  • iOS
  • Android
  • Frontend
  • Backend

Campシステム期

各チームがローンチ期に近いミニスタートアップに近い構成。デザイナーが共有ぎみか。

Team 1

  • PM
  • EM
  • iOS x2
  • Android x 2

Team 2

  • PM
  • EM
  • iOS x2
  • Android x 2

Camp共有

  • PM Head
  • Eng. Head
  • Designer
  • QA

SODA(2023)

割合マネジメント特化のEM組織を別に組成するパターン(に見える)

プロダクト開発

  • Web x 5
  • Flutter x 2
  • Design x 1
  • PdM x 1

エンジニアリングマネジメント

  • EM x 3

Voicy(2023)

各チームのばらつきが大きく型が定まっていない。 マネジメントだけのEMの兼業が多いパターン。

Mission

  • (EM x 1)
  • iOS
  • Android
  • BE
  • UX/UI
  • PM

App Enabling

  • iOS x 3
  • Android x 3

Backend Enabling

  • SRE
  • BE x 5

Timee(2023)

チーム内にPOとは別にスクラムマスターがいる構成。

  • PO x 1
  • SM
  • Backend x 2
  • Android x 1~2
  • iOS x 2
  • (Analyst x 1)
  • Designer

その他

所感

個人的にはスケールする上でPMの組織化は必須で、マネジメントだけするEMの組織化はAssessOpsの観点から微妙だと思っています。

全体的にプロダクトオーナーとプロダクトマネージャーが分かれていたり、プロダクトマネージャー(PdM)とプロジェクトマネージャー(スクラムマスター)を別に置いている組織が多いですね。

例えば日本のSIerで多重下請け構造が問題とされることがあります。同一労働同一賃金の流れの中でグループ内企業で安い子会社から派遣みたいな業態は法律上の制限が増えた部分もあるのですが、意外と下請けのレイヤー通りに階層があることは稀で色んな所属の人がいる現場、正社員率が100%でない場合も経験上多いです。

自分は専任のスクラムマスターは業態によっては不要という立場ですが、解雇規制の強さから一部開発をアウトソースしていたり、所属バラバラの混成チームが多い日本の現場の場合、プロジェクト管理のコストが高く、結果としてPdMとテックリードの二元論だけだと間のボールになりやすいのかもしれないですね。